
人の魅力研究の一つとして、「クールな」「優しそう」といった対人印象に関する研究が行われています。その多くは顔やメイクアップに焦点を当てて研究されたもので、髪型と対人印象の関係については十分に解明されていません。
そこで今回は「髪型」にフォーカスして、髪が対人印象に与える影響力を明らかにしていきます。
〈ルベルの印象学研究①〉髪の「どこ」を見て印象を評価するのか?
まずは、人が印象を評価するときに、「どこ」を見ているのかを明らかにしようと考えました。人の視線追跡を行うことができるアイトラッカーという小型デバイスを用いて、瞳の位置や反射を読み取り、どこを、どのくらいの時間をかけて見ていたかを分析します。

(イメージ図)
52名の女性に、「ヘアセットあり」と「ヘアセットなし」の2種類の髪型について、「清潔感がある」「魅力的である」「髪が整えられている」「髪のエイジングを感じる」といった印象ワードを点数で評価してもらいました。
その結果、すべての印象ワードにおいて「ヘアセットあり」では「前髪」と「顔」を見る時間が長くなり、「トップ」「サイド」「毛先」を見る時間が減少しました。

この結果から下記のことが考えられました。
・ヘアセットをすると、目線が「前髪」や「顔」など中心部に集まる。それは、トップやサイドなどのアホ毛や毛羽立ちなど視線が集まりやすい髪の乱れが減少したからだと考えられる。まずは、髪を整えないことには、顔を見る時間が減る。すなわち、どれだけメイクをしても印象への影響が弱まる可能性がある。
・ヘアセットをした髪型では「前髪」を注視する時間が長いため、印象に与える影響が大きく、一方で、「トップ」「サイド」「毛先」の影響は少なくなるのではないか。
〈ルベルの印象学研究②〉髪のどこを「どう」変えると、印象が変わるのか?
人が髪型から印象を評価するとき、「前髪」が重要なポイントで、「毛先」などその他の部位はそれほど影響しないのではないかと考えました。
そこで、「前髪」と「毛先」を変化させた12種類の髪型をウィッグで作成し、32人の顔から作った平均顔と合成して、髪型の違う12種類のモデル画像を作成しました。

これらの髪型それぞれに対して下記の印象ワードが当てはまるかどうかを、517名の女性が0~10点で評価しました。
| 穏やか | 親しみやすい | かわいい |
| モテそう | 美しい | クール |
| エネルギッシュ | 爽やか | 清潔感がある |
| 好感が持てる | 派手な | 多幸感がある |
| 仕事ができそう | 魅力的な | 年齢(フリーアンサー) |
集計したところ、下記のような結果が得られました。

例えば、「親しみやすい」という評価では、下記のグラフの結果が得られた。

毛先が「内巻き」の場合、「前髪あり」と「前髪分け」は、他の毛先(「まっすぐ」「ノーマル」「外巻き」)よりも高い点数を示している。つまり、「毛先内巻き」が「前髪あり」や「前髪分け」の効果を増幅しているといえる。
一方、「前髪なし」は、どの毛先でも点数にほとんど差がなく、平均的に「前髪あり」や「前髪分け」より低めである。このことから、「前髪なし」は毛先の影響をほぼ打ち消してしまうと考えられる。
このように印象ワードによって、最適な「前髪」と「毛先」の組み合わせがあり、相乗効果が見られました。
〈ルベルの印象学研究③〉「かわいい」「美しい」を感じる髪型
次に、「かわいい」と「美しい」という印象ワードに注目しました。
点数が高くなった組み合わせは、それぞれ2パターンとなります。


この結果から下記のような考察ができます。
・かわいい:日本では「かわいい」の本来の意味が「子どもらしさ」「無垢さ」などと結びついている。また、人は子ども向けアニメのキャラクターのように丸みを帯びた顔や大きな目、短い手足などの形(ベビースキーマ)を「かわいい」と感じる傾向にある。「前髪あり」だと顔の中で目の占める面積が大きくなるため、額を出した時と比べて相対的に目が大きく見える。また、毛先を内巻きにすることで丸くて幼児のような柔らかい顔が演出される。このような理由から、「前髪あり」もしくは「前髪分け」×「毛先内巻き」の髪型は「かわいい」の点数が高かったと考えられる。
・美しい:「前髪」と「毛先」の統一感が重要なポイントとなる。「前髪なし」×「毛先まっすぐ」は直線同士、「前髪分け」×「毛先内巻き」は曲線同士の組み合わせ。ファッションやWebデザインなどでも統一感が美しさにつながるとも言われており、髪型もこれらと同じような造形物として評価される側面が一部あると考えられる。


(イメージ図)
前髪と毛先の統一感
3つの髪型の中で「前髪分け」×「毛先内巻き」を組み合わせたスタイルは、「かわいさ」と「美しさ」の両方で高評価を得ました。
同じスタイルでも両方で評価された理由は、かわいい印象を引き出す要素(目の大きさや丸みのあるシルエット)と、美しさを際立たせる要素(髪全体の統一感や全体のバランス)がどちらも備わっているからだと考えられます。
分け目の深さ(額の露出量)や、内巻きのカールの強さを変えることで、より「かわいい」印象を与えたり、逆に「美しさ」を強調したりと、印象をコントロールすることも可能です。
以上のことから、「前髪」も「毛先」も見る時間の長さに関わらず、周辺視野でぼんやりと認識しているだけでも印象に影響を与えていることがわかりました。また、この二つには相互作用があり、印象に与える影響を増幅しているという奥深い構造的な関係性も明らかになりました。

前髪は中心視野をメインに、毛先は周辺視野として見ている。前髪と毛先には相互作用がある。
髪型と印象の関係を知り、対人印象をコントロール
私たちは今回の研究を通じて、髪型が人に与える印象を大きく左右すること、そして人々が印象を評価する際に髪のどの部分に注目しているのかを明らかにしました。この知見は、ビジネスや日常生活で、目的に合った印象を演出したい時に、効果的な髪型選びのヒントとして活用できると考えています。今後も研究を進め、髪型選びの参考となる情報を継続的に発信していきます。
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