2022.09.30

  • our technology

動物毛研究~ホッキョクグマはなぜ寒くない?~

寒さに適応して北極圏に生息するホッキョクグマの毛は、「中心が空洞になっていることで温かさを保っている」といわれています。
人間の毛髪とは異なる、その内部構造を研究した結果、人間の毛髪研究のヒントにもなる新事実が判明しました。今回は、「ホッキョクグマの毛」について解説します。

〈ルベルの動物毛研究①〉動物園との共同研究

タカラベルモントの本社が大阪にあるご縁で、天王寺動物園(大阪市天王寺区)との動物毛に関する共同研究がスタートしました。

まず、動物の負担にならないように毛を採取し、回収した毛についている不純物を洗浄します。

洗浄後、乾燥させた毛をサンプルとして、当社に提供していただきます。

天王寺動物園では、ワシントン条約でリストアップされている動物をはじめ、絶滅の恐れのある動物の保護をはかり、動物を第一に考えた飼育環境を整えています。
動物に苦痛を与えるような動物実験を行わないことを「クルエルティフリー」といいますが、共同研究においては、クルエルティフリーの考えのもと、天王寺動物園のスタッフが獣舎を清掃する際に落ちている毛を採取するなどして研究を進めています。共同研究では、動物の保護という観点を大切にしています。

〈ルベルの動物毛研究②〉どのようなことがわかったの?

毛の内部観察については、横方向に輪切りにする方法が主流でしたが、今回自社で開発した独自技術を用いて、ホッキョクグマの毛を縦方向に切り、内部構造を連続的に観察してみました。
すると、中心が空洞になっているといわれていたホッキョクグマの毛は、すべて同じ空洞ではなく、少なくとも4種類の異なる構造が存在していることがわかりました。

・ホッキョクグマの毛の断面

それぞれの構造がどのような役割を担っているか、まだはっきりとはわかっていません。ただし、空間や空隙を確保するメリットは、少なくとも3つあるのではないかと考えられます。

A.空間が広いことにより空気を多く含め、断熱に役立つ
B.空間が多くあることで、毛を軽くすることができる
C.空隙の数が多いことで、光を散乱しやすくなる

また、③の部分では脂溶性の膜の存在が明らかになり、水分などの浸透を防いでいる可能性が浮上しました。
ホッキョクグマが厳しい環境で生き抜くために、①~④のような異なる構造をうまく合わせ持つことでA~Cの要素を満たしているということが考えられます。
通常、ごく小さい穴しか存在しない人間の毛髪とは異なり、ホッキョクグマの毛は完全な空洞をもつ部分が存在するということが、今回の内部観察によってわかりました。

【参考】人間の毛髪の断面

毛の構造については、人間と同じく「キューティクル」「コルテックス」「メデュラ」の3層構造ということもわかっています。(人間の毛髪の基本構造について詳しくはこちら。)

次に、保温実験を行いました。
40℃程度に温めたゴム板の上に、常温のホッキョクグマの毛と人間の毛髪を同じ重量置きます。

サーモグラフィで観察し、何も置いていないゴム板(コントロール部分)が常温に戻ったところで毛を除去。毛が置いてあった部分の温度を観測し、毛の保温機能の指標としました。

この実験によって、「ホッキョクグマの毛は人間の毛髪よりも高い保温機能を持っている」ことがわかりました。
ホッキョクグマの毛がもつ高い保温機能は、形状だけによるものではなく、内部構造の違いにより人間の毛髪との機能の差が生じている可能性が高いと考えています。

〈ルベルの動物毛研究③〉動物の毛を知り、環境問題を考える

ホッキョクグマの毛の内部構造について、今回の発見をポスターにして天王寺動物園に掲出しています。

天王寺動物園と共同開催した小中学生とそのご家族向けのセミナーでは、研究で明らかになった毛の秘密について紹介しました。また、このセミナーでは北極の海氷減少とも関連が深いとされる地球温暖化の話題についても取り上げ、参加者と、環境保護のためWWF(公益財団法人世界自然保護基金)への寄付活動を行いました。

ホッキョクグマの毛については、継続して研究を行っていますが、その他にもカリフォルニアアシカやライオンなど、様々な動物の毛の観察を進める中で、動物の毛もそれぞれ違った特性を持っているということが分かってきています。

地球上の生物と共に、美しく生きる喜びを

この研究は、人間の毛髪の芯部(メデュラ)の構造を世界で初めて解明するきっかけともなりました。
毛については、まだまだ未知の部分が多いといえます。動物の毛の秘密を知ることを通じて人間の毛髪と地球上の動物への理解を深め、さらには環境問題へ関心を持つきっかけになることを願っています。
今後も、動物の保護や生態系を保全する目的で行う活動を通じて、世界中の人々がこの先の未来も持続可能な豊かで美しい人生を享受できるように研究を続けていきます。

 

 

サロンワークと暮らしの中でできる地球にやさしいこと

ルベルの環境活動はこちら

SHARE :